身を守るための情報

骨転移の脅威から身を守る予備知識は、すでにいくつかの情報源にまとまったものが掲載されています。リンク集を参照下さい。これらから大部分の情報を得ることができます。

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過去にがんの診断を受けたことがない方

Walk Togetherでは、がんの診断を受けたことがない一般の方々にも広く骨転移の予備知識を呼びかけています。今日、日本国民の二人に一人が生涯にがんを経験します。がんが骨転移をきっかけに見つかることは決してまれではありません。
体験談のコーナーに、実際にあった前立腺がんのケースを紹介しています。下半身不随で発症し精密検査の結果がんと判明したが、「もう歩けるようにはなりません」と説明を受けるというような事例が、実際に起こっています。怪我をした覚えもないのに、しつこい痛みがあって悪化してきているような場合、「もしや骨転移では?」ときづいて受診に結び付くかが、鍵となっています。
以下に記載のがん患者さん向けの予備知識は、実は全ての国民の皆さんに周知が必要な内容です。

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がん患者さん、がんサバイバーの方

初期症状である「痛み」について

早めに骨転移を察知するのに、ご自身での点検は痛みが頼りとなりますが、痛みは言うまでもなく自覚症状です。どんなに言葉を尽くして解説をしても、感じ方は人それぞれですから、結局うまく伝えられないという本質的なジレンマを持っています。
そこで骨転移で生じる痛みの性質のうち、より客観的な部位痛みの経過に着目するようにお伝えしています。これらが目安となりますが、ご自身での自己判断は避け、主治医の先生に相談することをやはり忘れないようにしましょう。

  1. 1.骨転移が起こりやすい部位

    肺がんの場合(後述)を除き、大部分のがん骨転移の起こりやすい部位は下図の通りです。

    骨転移が生じやすい部位。赤い部分で約9割を占めます。

    骨転移が生じやすい部位。赤い部分で約9割を占めます。

     背骨、骨盤、大腿骨、上腕骨で約9割を占め、肘や膝から先にはほとんど骨転移は生じません。逆に、抗がん剤などによるしびれや痛みは、手袋型や靴下型などと呼ばれ、手足の末梢に、両側対称性にほぼ同時期に出現するのが特徴です。この痛みの部位の特徴や、薬剤の投与後で腫瘍マーカーが低下しているのに痛みが生じてきた、などという場合には、主治医はすぐに薬剤による症状と判断できてしまいます。

    肺がんの骨転移も主には上記の部位に骨転移を生じますが、肘や膝から先にも比較的転移がみられることが特徴です。

  2. 2.とくに下半身不随と関連しやすい痛みの部位

     骨転移が引き起こす問題のうち、何としても避けなければならない下半身不随は、背骨への骨転移が原因で起こります。中でも胸椎と呼ばれる背中部分が約6-7割を占めることが判明しています。
    痛みが胸椎にきっちり出てくれればいいのですが、わき腹や前胸部付近の痛みではじまることがあり、背中から胸回りがとくに要注意と覚えておきましょう。
    このように骨転移の予備知識を前もって学ばれている皆さんは、不必要に不安に陥ることなく、勘所をおさえてご自身の身を守ることが可能となります。

    最も気になる自覚症状の統計

     なお世間一般に、腰痛をお持ちの方は非常に多く、2013年の国民生活基礎調査では人口1000人あたり腰痛を訴える方は130人余りとのデータがあります。日本国民の身体の不具合では、最も多い訴えであることが分かっていますが、下半身不随の危険性の高い背部痛とは少し部位が異なるのが注目すべき点です。
    ですが、やはりこれも自己判断は禁物です。次項のように痛みが増悪傾向の方は、受診の上「がんの骨転移は大丈夫でしょうか?」と臆さず尋ねてみることが肝要です。骨転移の社会的認知は十分ではない今日、骨転移のことを尋ねる患者さんが増えてくることが、現場の医師の意識を高める一助となります。

  3. 3.痛みの経過の特徴

     がん骨転移では、一般に週から月単位で徐々に痛みが増悪する経過をたどります。以前と比べて明らかに悪化していると感じられるのであれば、必ず受診しましょう。
    1-2年前から続いている症状では、加齢性変化による痛みや、関節リウマチやヘルニア、坐骨神経痛など元々お持ちの疾患に起因するものが一般的です。一方、数時間や数日単位で急速に悪化する痛みは、急性炎症などを疑う経過です。
    また言うまでもありませんが、からだのどこかをぶつけた等の明らかなきっかけがあるものを除きます。何も痛みが出るようなきっかけがないのに、新たに生じてきた痛みとして骨転移の症状は出てきます。また顕著な腫れや熱感を伴わないのが通常です。

骨転移の点検は医師と患者さんとの共同作業

がんと診断されて以降の点検は、主治医が計画的に行っていますが、病状の推移を完全に予測することは困難な場合があります。定期検査を受けつつも、今までにない痛みに気づいたときは、申し出ることが大切になってきます。(朝日新聞記事「気付いて がん骨転移」参照)

医師であっても時間経過のみで診断できる訳ではありません。前述の痛みの部位や、安静にしていても感じる痛みなのか、動いた時の痛みなのか、ホルモン療法や抗がん剤の効いている状況なのか、がんが増悪している傾向にあるのか、腫瘍マーカーの変動、画像所見など、多くの情報から総合的に判断しています。痛みが骨転移によるものかどうかの自己判断は禁物です。必ず医師に相談しましょう。診断は医師の役目、痛みに気づき医師に伝えるのは患者さんの役目です。(がんナビ第15回に関連記事)

正しく見分けていくのは共同作業

もし骨転移の痛みではないと医師の診断を受けたら、また新たに上乗せされてくる痛みを自己チェックするようにしていって下さい。

検査の方法や実施頻度などについて

最も骨転移のデータ集積が進んでいる乳癌ガイドラインでは、心情的には不十分に感じられるかもしれませんが、定期的な骨シンチやPETの必要性は明確に否定されています。その前提としてあまりに小さな骨転移を発見して治療する意義が乏しいためです。この前提も心情的に受け入れづらいかもしれないのですが、ここに骨転移診療の特殊性があります。骨転移診療が目指すものを是非お読み下さい。
ここに誤解が生まれると、医師と患者さんの間に無用の衝突が生まれる恐れがあります。情報を届けて麻痺を減らす必要がある一方、誤解が生じて現場が混乱することは、避けなければなりません。

腫瘍マーカーが病気の活動性の指標に使える場合は、定期的なチェックが推奨されていますが、指標にならない場合では、画像検査が主体になります。しかし主治医は、元々のがんの性質(組織型や悪性度などとよばれるもので主治医は把握しています)や経過期間、治療にどの程度反応するかなど、多くのことを考慮に入れて、検査計画を立てています。がんの転移はまた、骨転移ばかりではありません。より生命への影響が大きい肺転移など、臓器転移の点検との兼ね合いもあり、一概にどの程度の間隔で検査が望ましいとは言えないのです。
実際の診療の中では、きわめて病状の進行が早い場合は、1-2ヶ月毎の診察が必要な場合から、腫瘍マーカーが安定し術後の年数も立っていれば、年に一度ということもあるかと思います。ここは個別の病状に大きく左右される部分です。

なお、定期検査にCT検査が行われている場合も多いと思います。胸部のCTを撮りますと、麻痺発生の原因となりやすい胸椎は同時に撮像範囲に入ります。患者さんの負担を減らし、被曝量も抑え、日本全体の医療費抑制にも配慮しながら、主治医は判断しています。

麻痺が疑われるときの対応について ~「48時間ルール」の功罪~

背骨への転移により麻痺(下半身不随)が発生した場合には、緊急の対処が必要となります。立位不能や歩行不能に陥ると、48時間以内に治療が行われなければその後の回復は困難とされています。麻痺発生時のゴールデンアワーや、タイムリミットなどと呼ばれている「48時間ルール」です。いくつかの問題点があり、知っていれば安全が保障されるものではありませんが、現在主流の考え方ですので、やはり予備知識として知っておかねばなりません。

麻痺が生じるまでには、背骨の転移が相当期間をかけて増大する過程があるはずですので、突然麻痺が襲ってくる訳ではありません。前述の痛みなどを我慢できるからと放置していた場合や、予備知識を持たないまま過ごされていた場合に、麻痺の危険性は忍び寄ってきます。

一般的な症状の進み方

  1. ① 怪我もしていないのに徐々に悪化する痛みが通常の初期症状です。
  2. ② 次には通常、感覚の異常(知覚障害)が生じてきます。範囲は抗がん剤の副作用による足部のしびれなどよりも広範囲となり、下半身不随が生じる前には太ももも含めた足全体、もしくは下腹部なども感覚が鈍くなるのが通常です。ご自身では気付きにくいことがあり、「皮を一枚かぶったような感じ」程度のことがあります。
  3. ③ ふらつき、足元の覚束なさが出現
  4. ④ 徐々に増強して何かにつかまっていなければ立てない、ついには全く立っていられない、歩けない状態に陥ります。

「48時間ルール」は④の立位不能、歩行不能となってからのタイムリミットが48時間であるとするものですが、実は歩ける体を維持していくための指標としては遅い可能性があります。【後述】

現時点での望ましい対処法

予備知識を学んでおられる皆様方においては、少しゆとりを持って前項の③ふらつき、足元の覚束なさ(※)を感じた時点で、一両日中に受診されるようになさって下さい。

※元々体力の低下が著しく、すでにふらつきがあるという方は①、②の症状や以前よりもふらつきが増強していないかに気をつけて下さい。

緊急の治療体制が全国各地で整備されているとは限らず、遅れれば遅れるほど条件は不利に傾いてしまうからです。もちろん、立てない、歩けない状態はがん救急です。ただちに病院受診が必要です。

「48時間ルール」の問題点

  1. 1.再び歩けるようになる確率は約6割

    麻痺に陥った方にとって、再び歩けるようになることが最大の望みです。しかし従来の48時間ルールでは、きちんと守られかつ緊急手術が行われた場合でも、歩行能力の回復は約6割にとどまるとのデータがあります。残りの4割の方は歩ける体を維持できなかったことになり、身の安全を保証する指標としては不十分な可能性があります。

  2. 2.治療体制の整備が十分ではない可能性

    Walk Togetherでは早急に治療体制の調査、公開が必要と考えており、皆さまの支援をお願いしていますが、緊急の手術や放射線治療にどの程度我が国が対応できているのかが明らかになっていません。骨転移への社会的認知は遅れており、様々なことがベールに包まれています。

  3. 3.周知が不十分

    Walk Togetherが組織される前の2014年時点では、「48時間ルール」を知っていると答えたがん患者さんは約25% でした(公開講座参加者へのアンケート調査)。予備知識を持たない方は、歩けなくなっても受診に結び付いていない可能性が高く、病院に搬送された時には「手遅れです」と宣告を受けてしまいます。

麻痺が出現した際の対応はまだまだ不明な点、医学的にも解明されていない点があります。骨転移への意識が高い患者さんが増えてくることが、何より改善のための原動力です。今までにない痛みが出てきたとき、臆さず「骨転移は大丈夫でしょうか?」と尋ねる方が、一般の方も含めて増えてくることが、皆さんにも参加して頂けるWalk Together運動です。がんの診断を受けておられる方はとくに、麻痺が疑われるときにはどう対処すればよいか、いつもの受診の際に主治医と相談しておくこともお忘れなく。

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