骨転移とは

がん骨転移とは

挿絵

肺がん、乳がん、胃がん、大腸がんなど、がんにはたくさんの種類があります。これらはがんを火事に例えると出火元に相当するので、原発がんと呼ばれたりします。これらの原発がんは体内のさまざまな部位に転移(てんい)(飛び火することに相当します)を起こす可能性があります。脳転移や肝転移、肺転移、皮下転移などがその例ですが、骨転移もその一つです。すなわち原発がんから骨にがん細胞がたどり着き、そこで骨を壊してさまざまな症状や障害を引き起こすもの、それががん骨転移です。なお原発がんにとどまらず、飛び火が生じていることから、骨転移は進行がんの状態として扱われています。


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本来の骨の役割

骨は本来、重力のかかる地球環境の中でからだを支える、文字通り屋台骨として機能しています。この他に肋骨などは体重を支えることはありませんが、内臓を保護しています。同様に、普段意識することはあまりありませんが、頭がい骨や背骨は脳や脊髄といった中枢神経を保護する働きを担っています。また骨には体内のカルシウムの貯蔵庫としての働きや血液を作り出す骨髄としての側面もあわせ持ちます。

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骨転移によって何が起こるか?

骨転移によって、がん細胞が骨の中でどんどん増殖し続けると、骨を破壊し本来の役割を損なっていきます。4つの問題が知られていますが、とくに骨折と麻痺が大部分となっています。

  1. 1.病的骨折
    骨ががん細胞により破壊されていくと、骨本来の固いという性質が損なわれていき、軽微な外力で骨折を起こしてしまいます。健常な人でもアクシデントに見舞われれば骨折が起こってしまいますが、通常では想定できないような場面、例えば平地を歩いていた、椅子から立ち上がった、コップを持とうとした、そんな些細な動作で骨折してしまうことを病的骨折といいます。
  2. 2.麻痺
    Walk Togetherが最も啓発に努めているのが、麻痺です。後述しますが、がん骨転移の大部分は背骨、中でも胸椎とよばれる部分に多発します。背骨の中には脊髄が通り、通常は外力が加わらないよう背骨が取り囲んで保護していますが、その背骨に転移が起こると、脊髄を強く圧迫して下半身不随を引き起こします。頸椎(首の骨)で同様の事態が発生すれば、手や腕の動きも麻痺してしまい、寝たきりの生活を強いられることになってしまいます。
  3. 3.高カルシウム血症
    カルシウムの貯蔵庫である骨がどんどん破壊された結果、高カルシウム血症が発生することがあります。一概には言えませんが、骨転移が多発する状態の方で起こるのが通常で、倦怠感、食欲不振、筋力低下、口渇、多飲、悪心などの症状が出現します。
  4. 4.骨髄癌症
    さらに病状が進み、骨転移のみならず他の部位への転移も確認されて、ほぼ末期に近い状況の中で起こるのが通常です。また全ての末期がんで出現するのではなく、比較的まれです。私たちの血液は日々、骨髄という場所で新たな血球が作られ更新されているのですが、全身の骨ががん細胞に占拠されてしまった結果、血液にも異常を来してしまう状態です。

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骨転移は命を脅かさない

骨転移が引き起こす問題の大部分は骨折と麻痺ですが、これらは本質的には直接生命に影響を与える問題ではありません。骨折は日常的に発生する怪我の代表ですが、命に別状をきたさないものが大部分です。また交通事故や転落事故などで麻痺に陥り、車椅子生活となったとしても、パラリンピックで活躍する選手たちの力強い姿を私たちは知っています。

※高カルシウム血症や骨髄癌症は元来、生命にも危険が及ぶ状態ですが、発生頻度が比較的まれである上、病気の勢いが強く、多くの場合他の転移もあり病院で管理されている状態の中で生じることが多いため、Walk Together運動では一般の方々が日々注意しておくべき予備知識として、骨折と麻痺に焦点を当てて紹介しています。

恐れずに骨転移の予備知識をつけておきましょう

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骨転移診療が目指すもの(骨転移診療の特殊性)

検査や治療の負担を極力抑えて高いQOLを維持すること

原発がんの診療では早期発見、早期治療がとても重要です。がん検診を積極的に受診しておくことが身を守ることにつながりますが、骨転移診療では目指すものが少し異なります。これには前述の骨転移独特の2つの性質が深く関係しています。

  1. 1.「基本的に生命への影響をもたらさない」
    骨転移が引き起こす問題は、生命を直接脅かすことではなく、骨折や麻痺あるいはその前駆症状としての痛みが、生活の質(QOL(キューオーエル); Quality of Lifeと呼ばれます)を悪化させることにあります。言い替えれば、痛みもなく骨折も麻痺の危険もない状態に管理ができる限りにおいては、検査の負担や痛みを伴うような治療も極力回避できている診療が目指すべき姿となります。
  2. 2.「骨転移は進行がんの状態」
    がん細胞が血流に乗って原発巣からすでに飛び火を生じている状態のため、原発巣の「個」の問題から、体「全体」の問題に変化したと医学的に考えることになります。個々の骨転移を早期発見・早期治療したとしても、より大きな問題である体全体への対応にはなりません。アスファルトの上に落下した小さな火の粉なら大火に及ぶ心配があまりないように、決して火の粉を軽視する訳ではないが、がんの勢いを抑えることの方が問題として大きいと考えることになります。あちこちから次の火の手があがることの方が問題であって、がんの勢いを抑える効果的な治療(抗がん剤治療やがんによってはホルモン治療等)を考慮することが個々の骨転移への対処より優先されることとなります。

    早期発見、早期治療が繰り返し強調されるがん診療の中にあって、骨転移は少し異色の領域です。無症状の小さな病変を発見する意義は否定的に考えられており、逆に全身にたくさんの骨転移を生じている方でも、良好に管理されていれば痛みも麻痺や骨折のリスクもなく、手術で痛い思いをすることもなく、生活への影響はほとんどなしということが多々あります。

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何としても避けなければならない麻痺

骨転移が引き起こす問題の大多数は骨折と麻痺です。骨折は体を支えるという骨の基本的な機能が比較的シンプルですので、テクノロジーの発達した今日では治療の選択肢が多く揃っています。一方、麻痺は一旦生じてしまうと治療困難となり、その後寝たきりもしくは車椅子での生活を強いられてしまいます。転移のことなど考えたくもない話ですが、麻痺が生じてから骨転移のことを学んだのでは遅いのです。

麻痺の生活の実際

  1. 1.痛み
    麻痺とともにほぼ必発となるのが痛みです。背骨は体重を支えていますから、座ったり立ったりのごく当たり前の生活動作で、傷んだ骨に上半身の重みがかかり、痛みを生じます。またがん細胞が脊髄を蝕む状態(浸潤(しんじゅん)といいます)が生じるととくに強い痛みとなり、麻薬系鎮痛薬を使用しても疼痛緩和が十分得られないことがあります。
  2. 2.寝返りや座ることが困難
    麻痺の約7割は胸椎で起こっています。頭に近い方の骨で麻痺が起こるほど、麻痺の範囲は広くなります。普段我々は何気なく椅子に腰かけることができますが、これには腹筋や背筋など体幹部分の筋肉でバランスを取っています。胸椎の上部で麻痺が生じると、座った姿勢を保持することも不可能になります。胸から下が意のままに動かせないと寝返りも打つことすら困難となってしまいます。
  3. 3.排泄の問題
    脊髄は排泄のコントロールにも深く関わっています。麻痺が重篤になると、トイレに行きたい感覚も、意識的に排泄する能力も喪失します。言うまでもなく、排泄は最も高いプライバシーが要求される場面ながら、誰かの世話にならなければ排便できない状態となり、患者さん本人にとっても介護する方にとっても、想像を越える苦しみとなります。
  4. 4.床ずれの問題
    寝返りが打てない、ずっと同じ姿勢でも感覚が全くない、そのような状態になると容易に床ずれ(褥(じょく)瘡(そう))が生じます。ときに骨が露出するほど深くなることがあり、排泄のコントロールも難しいために、感染を併発しやすくなります。感染が生じると悪臭が部屋中に漂い、日に何度か膿を洗い流す処置が必要となります。重い体を横向けにしてベッド上で行なうとなると、処置をする人の負担も相当なものとなります。

どんなに介護サービスや緩和医療が拡充されても、一旦麻痺が起きてしまうとご本人とご家族の負担はあまりにも大きなものとなってしまいます。何としても避けなければならない麻痺。Walk Togetherでは身を守るため様々な情報を発信できるように努めています。

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骨転移診療が抱えるその他の問題

全国に専門医は数百人程度

がんと共に生きる方やがんサバイバーの数は500万人を越えたと言われています。これに対して、がん骨転移の領域で専門性をもつ腫瘍整形外科医は全国でわずかに数百人程度とみられています。
彼らは通常、肉腫と呼ばれる稀少がんの診療にあたっているために、その前提に立てば十分な医師数と考えられているようです。しかしその専門医も骨転移だけに邁進できる訳ではありません。治療データの分析や情報公開、診療の改善が進まないのも無理からぬことなのです。現場の医師や医療機関の問題ではなく、構造的な診療体制の問題があるのです。
増加する骨転移患者に対して、がん対策基本法が謳う質の高い療養生活を実現するには、まだまだ骨転移対策は十分ではありません。まず国民に適切な情報が行き渡ること、二人に一人が必ず自身の問題として関わることになる骨転移だからこそ、この運動に多くの方の声を集めていく必要があるのです。

※ 2015年7月1日現在、近畿圏内がん診療連携拠点病院およびこれに準ずる医療機関150ヶ所に送付したアンケート調査の回答はわずか15施設にとどまっています。情報公開を求めるネット署名にご協力をお願い致します。

いわゆる「48時間ルール」の問題

脊椎への転移による下半身不随では、一般に、立位不能もしくは歩行不能に陥ってから48時間以内に治療が必要とされています。しかし、歩行能力の回復率が十分でない、周知が十分でなかったり、緊急対応が可能かどうかなど、いくつかの問題点があります。
詳細は、身を守るための情報コーナーをご覧下さい。

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